「数字の変化」を言葉にする、Excelの集計結果から「分析コメント」を作る方法
Excelで集計が終わった瞬間、ふっと力が抜ける。ピボットテーブルを回して、前月比や前年比の数字が出揃った。ここまでは順調だ。しかし、その後に待っているのが本当の苦行だ。
「で、この数字の変化をどう説明するか」
Excelの表を眺めながら、報告書の「分析コメント」欄を埋めるために、真っ白な画面と格闘する。売上が上がったのはなぜか、コストが跳ね上がった要因はどこにあるのか。数字の裏側にある「意味」を言葉にする作業は、計算よりもずっと神経を使う。
もし、この「数字を言葉にする作業」をAIに手伝わせるとしたら、どう指示を出せばいいのか。適当にデータを放り込んで「まとめて」と頼んでも、AIは「売上が増加しました。一方で、コストも増加しています」といった、当たり前すぎて報告書には書けないような回答しか返してくれない。
この記事では、Excelの集計結果をそのまま報告書に使える「分析コメント」へと変換するための、具体的な手順をまとめている。
「要約して」では、使い物にならない
私が以前、失敗した時の話だ。
月次の売上データと経費のデータをまとめて、AIに「このデータの傾向を分析して」とだけ投げたことがあった。返ってきたのは、グラフを見れば誰でもわかるような、表面的な事実の羅列だった。「A製品は10%増、B製品は5%減」といった、私が自分で打ち込むよりも時間がかかるような内容だ。
結局、その回答を修正するのにさらに時間を使い、結局自分で書き直した。AIに丸投げしようとして、逆に作業が増えてしまった。
失敗するパターンは明確だ。
AIに対して「何を、どのような観点で、どの程度の粒度で分析してほしいか」という指示(判断基準)を欠いているとき、AIは「もっともらしいが、価値のない言葉」を量産してしまう。
分析コメントを自動化するには、AIに「計算機」ではなく「優秀な事務方のアシスタント」として振る舞ってもらうための、具体的なルールを渡す必要がある。
データをAIに渡す前の「守り」と「整え」
まず、社内データをAIに渡す際の作法だ。これは、会社によってルールが異なるので、必ず自社のセキュリティ規定を確認してほしい。その上で、どうしてもAIを使わざるを得ない場合の「データの伏せ方」について。
具体的な製品名や、顧客名、正確な金額をそのまま入れるのは避ける。ただし、数字の「大小関係」や「変化の割合」がわからなくなると、分析の精度が落ちる。そこが難しいところだ。
おすすめは、以下のように「構造を保ったまま置き換える」方法だ。
- 製品名: 「製品A」「製品B」や「主力製品」「サブ製品」に置き換える
- 顧客名: 「顧客X」「顧客Y」に置き換える
- 金額: そのままではなく、例えば「100倍した値」にするか、あるいは「1,234,567円」を「123万円」のように端数を切り捨てる。あるいは、「前月比110%」という比率データに変換してから渡す。
また、Excelの表をコピーしてAIに貼り付けるときは、Markdown形式の表よりも、TSV(タブ区切り)として貼り付けるほうが、AIが列と行の関係を正確に認識しやすい。Excel上で範囲を選択してコピーし、そのままチャット欄にペーストすれば、大抵はタブ区切りとして扱われる。
2つのアプローチ:全体を見るか、変化を追うか
分析コメントを作る際、私は以下の2つの方法を使い分けている。
方法A:全データの傾向把握(マクロ分析)
半年分や1年分のデータなど、まとまった量の動きを見せ、大きなトレンド(右肩上がりなのか、季節性があるのか)を抽出させる場合に使う。
方法B:特定の要因分析(ミクロ分析)
「なぜ今月だけ、この項目が急増したのか?」といった、特定の異常値や変化にフォーカスさせる場合に使う。
報告書で求められるのは、多くの場合、方法Bの「変化の理由」だ。そのため、以下のプロンプト例では、変化に焦点を当てた指示構成にしている。
そのまま使える:分析コメント生成プロンプト
以下のプロンプトをコピーして、[ ] の部分を書き換えて使ってみてほしい。
# 役割
あなたは優秀な経営企画部門のアナリストです。
提供する数値データに基づき、報告書にそのまま記載できる「分析コメント」を作成してください。
# 目的
数値の変化から「何が起きているのか」を言語化し、次のアクションに繋げるための判断材料を提供すること。
# 入力データ(TSV形式)
[ここにExcelからコピーしたデータを貼り付ける]
# 分析の指示
以下の3つの観点でコメントを構成してください。
1. 全体の概況:数値の全体的なトレンド(増減の傾向)を簡潔に。
2. 特筆すべき変化:前月と比較して、特に大きく動いた項目とその変化率。
3. 考察と示唆:数値の変化から推測される要因(データから読み取れる範囲で)と、今後注意すべき点。
# 出力ルール
- 「〜です・ます」調で、ビジネス文書として適切な表現にすること。
- 「増減しました」だけでなく、「〜の影響により、〇〇%の増加となった」のように、根拠となる数値を必ず含めること。
- 箇条書きを用いて、視覚的に分かりやすくすること。
- 抽象的な表現(「大幅に」「少し」など)を避け、可能な限り数値的なニュアンスを含めること。
入力データのイメージ(TSV)
Excelからコピーした際、以下のような形式になっていればOKだ。
項目 4月 5月 6月 前月比
主力製品A 1200 1350 1500 11.1%
サブ製品B 800 750 700 -6.7%
販促費 200 250 300 20.0%
「こうするとうまくいかない」失敗パターン
この手法を使うとき、陥りがちな罠がひとつある。
それは、「AIに原因を勝手に捏造させてしまうこと」だ。
例えば、売上が落ちているデータに対して、AIは「市場環境の悪化が原因と考えられます」といった、もっともらしいが根拠のない推測を書きがちだ。
これを防ぐには、プロンプトの「入力データ」の直前に、「参考情報」として、こちらが把握している事実を一行添えるのがコツだ。
> 参考情報: 5月は大型連休があり、営業日数が前月より3日少なかった。
このように、データには表れていない「背景」を少しだけ教えてあげる。これだけで、AIが書くコメントの「考察」の精度は目に見えて変わる。
最後に
AIに分析を任せると、どうしても「きれいな文章」になりすぎて、現場の生々しい感覚が消えてしまうことがある。
AIが出してきた回答をそのままコピペするのではなく、最後に自分の目で見て、「この『市場の停滞』という表現は、今の現場の空気感と合っているか?」と一呼吸置いて確認してほしい。
AIは、ゼロから文章を組み立てる苦労を肩代わりしてくれるが、最後にその言葉に責任を持つのは、数字の背後にある現実を知っているあなた自身だ。
さて、私は明日の定例会議に向けて、このプロンプトを使ってQ3の予測データの分析を回しておこうと思う。