複数の提案書を読み比べ、判断材料となる「比較表」を素早く作る方法
3社分の提案書、どこに何が書いてあったか探すだけで午前中が終わる
「これ、A社とB社とC社の違いをパッと表にまとめといて。部長が明日確認したいってさ」
部長からのこの一言。内容はシンプルですが、やってみるとなると一苦労です。手元には、形式もバラバラな3社分のPDF資料。ある会社は「価格」を強調し、ある会社は「保守体制」を厚めに書き、また別の会社は「導入スケジュール」を詳細に記している。
それらを一つずつ開き、ページをめくり、気になった箇所をメモして、Excelのセルに打ち込んでいく。この「探し出して、書き写す」という作業だけで、気づけば午前中が終わってしまう。しかも、集中力が切れた頃に「あ、A社のこの条件、見落としてた……」と、後から焦ることも少なくありません。
もし、この「探し出し」と「書き写し」の部分をAIに任せられたらどうでしょうか。形式の違うバラバラな提案書から、自分たちが判断するために必要な項目だけを、一瞬で「比較表」の形に整えてもらう。この記事では、そのための具体的な手順をまとめました。
失敗から学んだ「比較表」の落とし穴
以前、私は新しい基幹システムの導入検討で、5社からの提案書を比較する作業を一人で担当しました。当時はまだAIを使いこなせておらず、気合でExcelに手入力していました。
「よし、完璧な比較表ができたぞ」と意気揚々と部長に提出したのですが、結果は散々でした。経理の小林さんから「このA社の見積もり、初期費用と月額費用の内訳が、提案書と食い違っているわよ」と指摘を受け、さらに部長からは「結局、どこが一番リスクが低いのか、一目でわからないじゃないか」と詰め寄られました。
原因は単純でした。私は「自分が重要だと思った項目」だけで表を作ってしまい、各社が異なる前提条件(例えば、保守範囲の違いなど)で数字を出していることを見落としていたのです。
比較表を作る際、一番怖いのは「情報の欠落」と「前提条件の不一致」です。AIに丸投げするのではなく、「何を、どのような基準で、どう比較したいのか」という設計図を先に渡す必要があります。
AIに渡す前に必ずやるべき「情報の目隠し」
ここで一つ、実務上の大前提を確認しておきます。会社の機密情報(具体的な製品名、取引先の社名、具体的な金額、担当者名など)を、そのままChatGPTなどの外部AIに放り込むのは避けてください。
「うちは大丈夫です」という声も聞こえてきそうですが、万が一の漏洩リスクを考えて、社内の情報セキュリティ規程を必ず事前に確認してください。その上で、情報を渡す際は以下の手順で「目隠し」をすることをお勧めします。
1. 固有名詞の置換: 「株式会社サンプルテクノロジー」→「A社」、「次世代クラウド基盤」→「システムX」
2. 金額の相対化: 正確な金額を「1,234,567円」と書くのではなく、「120万円前後」や「金額A」といった表現に変える。ただし、比較が目的であれば、「A社はB社の約1.2倍の価格設定」といった、相対的な関係性がわかる形で残しておくのがコツです。
3. 日付の一般化: 「2024年10月1日導入」→「導入開始時期:2024年Q4」など。
情報を消しすぎて、比較の意味がなくなっては本末転倒です。情報の「中身(具体名)」は隠し、「構造(大小関係や時期の前後関係)」は維持したまま渡す。これが、安全にAIを活用する最低限の作法です。
比較表を作る2つのアプローチ:ファイル読み込み vs テキスト貼り付け
提案書をAIに読み込ませる際、大きく分けて2つの方法があります。どちらを使うべきかは、手元にある資料の状態によって決めてください。
方法A:ファイルを直接アップロードする
ChatGPT(GPT-4以降)やClaudeなどの、ファイル読み込み機能があるAIを使う方法です。
- 向いているケース: 提案書が数十ページあるPDFや、スライド形式の資料が多い場合。
- メリット: 自分でテキストをコピーする手間が省ける。
- デメリット: 資料のレイアウト(複雑な図解や表)によっては、AIが情報を読み飛ばしたり、誤読したりするリスクがある。
方法B:テキストをコピーして貼り付ける
PDFやWordから必要な箇所だけをコピーし、チャット欄に直接貼り付ける方法です。
- 向いているケース: 比較したい項目が、各社の「見積書」や「サービス仕様一覧」など、特定のページに固まっている場合。
- メリット: AIに渡す情報をコントロールしやすく、読み間違いが少ない。
- デメリット: コピー&ペーストの手間がかかる。
結論としての使い分け:
まずは「方法A」でざっくりと全体像を把握させ、AIがうまく抽出できなかった重要な項目(価格の内訳や特殊な契約条項など)についてのみ、「方法B」でピンポイントにテキストを渡して精度を高める、という「二段構え」が最も効率的で確実です。
実践:共通の評価軸で情報を抜き出すプロンプト
それでは、実際にAIを使って比較表を作成する手順に移ります。ここでは「方法A(ファイルアップロード)」を想定した手順で説明します。
手順1:比較したい「軸」を決める
いきなり「これらを比較して」と言うのはNGです。まずは、自分がExcelに作りたい列の見出し(比較軸)を書き出してください。
例:導入費用、月額保守料、保守範囲、導入までの期間、サポート体制
手順2:プロンプト(指示文)を入力する
以下のプロンプトをコピーして、比較したい資料と一緒にAIに投げてみてください。
# 目的
添付された複数の提案書から、指定する評価軸に基づいた比較情報を抽出し、比較表を作成してください。
# 評価軸(比較項目)
・導入費用(初期費用)
・月額費用(運用保守費)
・保守の範囲(24時間対応か、平日のみか等)
・導入までの最短スケジュール
・主な機能の差分
# 出力形式
・Excelにそのまま貼り付けられるよう、項目をタブ区切り(TSV形式)で出力してください。
・各項目は、以下の列構成にしてください。
[比較項目] [A社] [B社] [C社] [備考]
・情報が見当たらない項目については、「不明」と記載してください。
・文章で要約するのではなく、できるだけ簡潔な言葉(体言止め)で抽出してください。
# 注意事項
・各社の前提条件が異なる場合は、「備考」欄にその旨を記載してください。
・金額については、単位(円、万円など)を統一して記載してください。
手順3:Excelへ貼り付ける
AIから出力されたテキスト(TSV形式)をコピーします。Excelを開き、貼り付けたいセルを選択して「貼り付け」を行うだけで、各項目が自動的に列と行に分かれて展開されます。
もし、Markdown形式の表(見た目はきれいだが、セル内の改行で崩れやすいもの)が出力された場合は、無理にExcelに貼ろうとせず、プロンプトで「TSV形式で出して」と指示し直すのが一番早いです。
「うまくまとまらない」ときのチェックリスト
AIを使っても、必ずと言っていいほど「あれ、思っていたのと違う」という場面に遭遇します。そんなときは、以下のパターンに陥っていないか確認してください。
- 「比較軸」が抽象的すぎる:
「特徴をまとめて」と指示していませんか?これではAIは、各社の「売り」を適当に要約してしまいます。「保守体制の比較」や「費用構成の比較」といったように、比較したい対象を具体的に指定してください。
- 情報の「単位」がバラバラ:
A社は「万円」、B社は「円」で記載されていると、AIがそのまま出力してしまい、Excel上で計算ができなくなります。プロンプトに「単位を〇〇に統一して」と一言添えるだけで、目に見えて使い勝手が良くなります。
- AIが「勝手に判断」してしまっている:
「A社はB社より安い」といった比較文を作らせてしまうと、根拠が不明確になります。「A社の価格は〇〇円」といった、事実(ファクト)のみを抽出させるのが、比較表作成の鉄則です。判断は、表ができた後に人間が行います。
比較表さえできてしまえば、あとは「どの項目が判断の決め手になるか」を検討する、本来の仕事に集中できます。
さて、次は「比較表にまとめた後の、各社への追加質問リスト」をAIに作らせる工程に移ろうと思っています。これも、なかなか面倒な作業なので。