会議の決定事項を、そのまま「周知用の案内文」に書き換える
「会議、お疲れ様でした」
そんな言葉を誰かにかけられて、ようやく解放されたと思ったら、ここからが本当の戦いだ。
手元に残っているのは、殴り書きのような決定事項のメモ。これを、Slackでチームにさっと流す「カジュアルな報告」に書き換え、さらにその後に部長への「正式な報告メール」として整える。
同じ内容なのに、送る相手によって言葉を選び、トーンを変えなければならない。Slackなら絵文字も少し混ぜつつ、要点を箇条書きで。メールなら、背景から丁寧に、失礼のない敬語で。
正直に言うと、議事録を書くこと自体は苦じゃない。でも、その決定事項を「誰に、どう伝えるか」という翻訳作業に、一番エネルギーを削られる。この「翻訳」を、AIに丸投げして片づけるための型を整理しておきたい。
決定事項をそのまま「周知文」にするための2つのアプローチ
決定事項を周知文に変えるとき、僕が試行錯誤して行き着いたのは2つの方法だ。
方法A:一発指示(シングル・プロンプト)
「このメモを、Slack用とメール用の2パターンで書いて」と、一回で指示する方法。
メリットはとにかく早い。チャットを立ち上げて、メモを貼って、実行ボタンを押すだけ。
デメリットは、出力された文面が「どこか他人行儀すぎる」か、逆に「丁寧すぎてSlackには重すぎる」といった、トーンのズレが起きやすいことだ。
方法B:段階的指示(ステップ・バイ・ステップ)
まず、メモの内容を「整理された決定事項リスト」に変換させ、その後に「それぞれの媒体に合わせて書き換える」という2段階の手順を踏む方法。
メリットは、文面の精度が圧倒的に高いこと。AIが一度「何が決まったか」を正しく理解してから文章を作るので、情報の抜け漏れが極端に減る。
デメリットは、プロンプトを2回打つ手間がかかることだ。
結論:どう使い分けるか
「急ぎで、内容も単純な決定事項(例:次回の会議日程が決まっただけ)」なら方法A。
「複数の関係者が絡み、誰が何をすべきかが重要な決定事項(例:プロジェクトの進め方が変わった)」なら、絶対に方法Bを推奨する。後者で方法Aを使うと、後で「あれ、これ誰のタスクだっけ?」という問い合わせが返ってくるリスクがあるからだ。
【実践】方法B:精度を最大化する2ステップの手順
ここでは、ミスが許されない重要な決定事項を想定して、方法Bの具体的な手順を解説する。
ステップ1:バラバラのメモを「構造化」する
まずは、会議中に取った断片的なメモを、AIに渡して「整理されたリスト」に変換させる。このとき、AIに「事実だけを抜き出せ」と命じるのがコツだ。
以下のプロンプトをコピーして使ってみてほしい。
# 依頼
以下の会議メモから、決定事項、保留事項、および次回までのアクションアイテム(誰が・いつまでに・何を)を整理して抽出してください。
# 出力形式
以下の項目ごとに、箇条書きで出力してください。
・決定事項
・保留事項
・ネクストアクション(担当者、期限、内容)
# 会議メモ
[ここに会議のメモを貼り付ける]
ステップ2:整理されたリストを「周知文」に変換する
ステップ1で出力された綺麗なリストを使って、いよいよ実際の周知文を作る。ここが本番だ。
# 依頼
以下の「整理された決定事項リスト」をもとに、2種類の周知文を作成してください。
# 条件
1. Slack用:
・チームメンバー向け。
・簡潔に、要点がひと目でわかる構成にする。
・冒頭に【決定事項のお知らせ】と記載し、適宜絵文字を使用して読みやすくする。
・「誰が何をするか」を明確にする。
2. メール用:
・部長および関係部署向け。
・丁寧なビジネス敬語を使用する。
・「背景(なぜこの決定に至ったか)」を含め、経緯がわかるようにする。
・件名は一目で内容がわかるものにする。
# 整理された決定事項リスト
[ステップ1で出力された内容をここに貼り付ける]
「こうするとうまくいかない」という失敗のパターン
AIに丸投げして、結局自分で書き直すことになった経験が何度もある。よくある失敗は、この2つだ。
1. 「背景」をすべて削ぎ落としすぎる
「決定事項だけを抽出して」と指示しすぎると、メール用の文章が「〇〇が決まりました。以上です。」という、血の通わない、それでいて角が立つ文面になりがちだ。メールには、なぜその決定が必要だったのかという「温度感」が必要になる。指示の中に「経緯を含めて」という一言を入れるのを忘れないでほしい。
2. 役割(ロール)を指定しない
単に「文章を書いて」と頼むと、AIは「教科書のような、どこにでもある文章」を生成する。Slackなら「プロジェクトリーダーとして、チームを鼓舞しつつ指示を出すトーンで」、メールなら「管理職として、丁寧かつ簡潔に報告するトーンで」といった具合に、「自分がどう見られたいか」を指示に加えるだけで、修正の手間は目に見えて減る。
セキュリティを守るための「データの伏せ方」
これは、情シスの及川さんに何度も注意されたことだ。
社内の機密情報や個人名を、そのまま外部のAIに放り込むのは、たとえ会社が認めていてもリスクがある。
「伏せれば安全」とは言い切れないが、少なくとも「構造」を保ったまま置き換える技術は持っておくべきだ。
ダメな例(情報の文脈が壊れる)
> 「A社の田中さんが、来週の予算1,500万円の件で、B部長に相談する」
> ↓(全部消す)
> 「〇〇さんが、〇〇の件で、〇〇さんに相談する」
> ※これでは、AIは「誰が」「何のために」動くべきか判断できず、文章がスカスカになる。
正しい例(構造を保ったまま置き換える)
> 「A社の田中さんが、来週の予算1,500万円の件で、B部長に相談する」
> ↓(属性で置き換える)
> 「[クライアント名]の[担当者名]が、来週の[プロジェクト名]予算[金額]の件で、[役職名]に相談する」
このように、「固有名詞」を「役割を示す変数」に置き換えるのがコツだ。これなら、AIは「クライアントの担当者が、上司に予算の相談をする」という文脈を理解したまま、適切な敬語や構成を組み立てることができる。
※念のため、外部AIを利用する際は、必ず自社のセキュリティ規定を確認してから作業に移ってほしい。
整理したデータをExcelで管理したい場合
もし、決定事項をそのまま進捗管理表(Excelやスプレッドシート)に流し込みたいなら、AIに「表形式」ではなく「TSV(タブ区切り)形式」で出力させるのが一番スマートだ。
Markdownの表形式は、そのままExcelに貼り付けると、セルが崩れたり、不要な記号が入ったりして、結局手直しが必要になることが多い。
プロンプトの最後に、こう付け加えてみてほしい。
「決定事項を、[決定事項, 担当者, 期限, ステータス]の列を持つTSV形式で出力してください」
これなら、出力されたテキストをコピーしてExcelのセルに貼り付けるだけで、綺麗に各列に振り分けられる。
| 決定事項 | 担当者 | 期限 | ステータス |
|---|---|---|---|
| プロジェクトAの予算確定 | 田中 | 10/25 | 完了 |
| 新規ツールの選定 | 佐藤 | 11/01 | 未着手 |
※上記はイメージだ。実際の出力は、メモの内容に応じてAIが生成する。
最後に
以前、僕は会議のメモをそのままAIに放り込んで、「これ、Slackとメールで送っておいて」と一発指示を出したことがある。
結果、出てきたのは、Slackなのに「拝啓」から始まるような、あまりにも重苦しい文面だった。それを見た後輩の田島に、「これ、誰への連絡?」と苦笑いされたときは、本当に恥ずかしかった。
AIは、あらゆる問題を即座に解決してくれるわけではない。指示の出し方ひとつで、最高の秘書にもなれば、空気を読めない新人にもなる。
とりあえず、明日の定例会議が終わったら、まずは「ステップ1」のメモ整理から試してみてほしい。それだけでも、会議後の「あー、書かなきゃ……」という重たい気分が、少しだけ軽くなるはずだ。
さて、僕も次の打ち合わせの前に、コーヒーをもう一杯淹れてこようと思う。