面倒な事務作業をAIに渡す実務メモ(Excel・会議・社内情報の整理が中心)コラム
会議が終わった直後、ふぅ、と一息ついた瞬間に襲ってくる「あ、これ、あの管理表にまとめなきゃ」という感覚。
打ち合わせの内容は盛り上がったし、方針も決まった。でも、手元に残っているのは、後輩の田島がチャットに投げた「例の件、進めときます!」という雑なメモと、自分が殴り書きした、文脈がバラバラな議事録の断片だけ。これを、経理の小林さんが納得するような、正確な「タスク管理表」や「決定事項ログ」に落とし込む作業……。これが地味に、そして確実に、こちらの集中力を削いでいく。
「いい感じにやっといて」という部長の言葉に応えるためには、結局、誰が・いつまでに・何をやるのかを、Excelの行としてきれいに整理し直さなければならない。
この「バラバラな情報を、構造化された表形式に整える」という作業は、AIが最も得意とする領域の一つだ。人間が「えーと、これは誰のタスクで……」と一文ずつ読み解く必要はない。
この記事では、会議のメモや乱雑なチャットのログから、そのままExcelに貼り付けて使える「タスク一覧」を作り出すための手順をまとめる。
会議の「あとはよろしく」を、管理表に落とし込む作業
会議のログからタスクを抽出する際、多くの人がやってしまいがちなのが、「会議の要約」をAIに頼むことだ。
「この会議の内容を要約して」
これだと、AIは「〇〇について話し合い、次回の検討事項となった」といった、読み物としての要約を出してくる。それはそれで役に立つが、我々が今すぐ片付けたいのは、Excelにコピペするための「タスクリスト」であって、綺麗な文章ではない。
目指すべきは、以下の要素が整理された状態だ。
- タスク内容(何を)
- 担当者(誰が)
- 期限(いつまでに)
- 備考(補足情報)
これらが、Excelの列と一致した形で出力されるように指示を出すのがコツだ。
AIに食わせる前に、最低限やっておくこと
ここで一つ、実務上の鉄則を。
社内の会議録やチャットの内容をAIに貼り付ける際は、必ず「情報の匿名化」をセットで行うこと。これは、会社のセキュリティ規定を遵守する以前に、自分自身の身を守るためでもある。
具体的には、以下の手順でテキストを加工してからAIに投げる。
- 固有名詞の置き換え: 「株式会社△△」は「クライアントA」、「プロジェクト・ゼウス」は「プロジェクトX」とする。
- 金額の抽象化: 「予算548,200円」は「予算(約55万円)」、あるいは「金額X」とする。
- 個人名の一般化: 登場人物は「担当者A」「リーダーB」などの記号に置き換える。
これを行う際、元のデータの「構造」は壊さないように注意してほしい。例えば、メールのやり取りをそのまま貼るなら、宛名や日付の形式は残しておいた方が、AIは文脈を理解しやすい。
「この情報は外に出していいのか?」と迷ったら、無理にAIを使わず、及川さん(情シス)に聞くか、あるいは「情報の粒度を落として、文脈だけを抽出したテキスト」を自前で作ってからAIに渡すという判断が必要だ。
「綺麗な表」はいらない。欲しいのは「貼り付けられるデータ」
ここが一番のポイントだ。ChatGPTなどのAIに「表形式で作って」と頼むと、多くの場合、Markdown(マークドダウン)形式の表が出力される。
見た目は綺麗だが、これをそのままコピーしてExcelに貼り付けると、一つのセルの中に全ての情報が押し込まれたり、書式が崩れたりして、結局「区切り位置」の設定などの修正作業が発生する。これでは、手間を減らした意味がない。
私が推奨するのは、TSV(Tab Separated Values)形式での出力を指示することだ。
TSVとは、各項目を「タブ(Tabキーの空白)」で区切った形式のこと。Excelはタブ区切りのデータを「隣のセルへ移動する指示」として認識するため、コピー&ペーストした瞬間に、各項目が正しい列へと分かれて流し込まれる。
以下に、そのまま使えるプロンプト(指示文)の型を置いておく。
# 役割
あなたは、極めて正確で几帳面な事務局担当者です。
# 依頼
提供する「会議メモ」から、実行すべきタスク(Action Items)を抽出し、指定の形式でリスト化してください。
# 出力形式
以下の項目をタブ区切り(TSV形式)で出力してください。
Markdownの表形式(|---|)ではなく、必ずタブ区切りで出力してください。
列名:
タスク内容 [TAB] 担当者 [TAB] 期限 [TAB] 優先度 [TAB] 備考
# 制約事項
- 期限が明記されていない場合は「未定」としてください。
- 担当者が不明な場合は「要確認」としてください。
- 箇条書きではなく、1行につき1タスクとして出力してください。
- 決定事項ではなく、あくまで「次にやるべき行動」を抽出してください。
# 会議メモ
(ここに、匿名化した会議メモやチャットのログを貼り付ける)
失敗しやすいパターンと、その回避策
この方法を使っても、たまに期待外れの結果が返ってくることがある。よくある失敗パターンと、その対処法をメモしておく。
1. AIが「分かったふり」をして、タスクを捏造する
会議の中で「いつかやりましょう」と冗談めかして言ったことまで、AIが「期限:未定、担当:全員」といったタスクとして抽出してしまうことがある。
回避策: プロンプトの制約事項に「文脈から推測せず、明示的に言及された行動のみを抽出してください」と一言付け加える。
2. 担当者が「全員」になってしまう
田島のようなタイプがチャットで「みんなでやっときます!」と書いた場合、AIは全員をタスクの持ち主としてリストアップしてしまう。これでは、小林さんに「誰がやるのか決まっていないじゃない」と突っ込まれる。
回避策: 出力されたリストを見た際、担当者が「全員」や「チーム」になっているものは、人間が必ず「誰か一人」に割り振る。AIに割り振らせるのではなく、AIには「候補を挙げさせる」程度に留めるのが賢明だ。
3. 列がズレる
指示を出しても、稀にAIが「タブ区切り」を忘れて、スペース区切りで出力してくることがある。
回避策: もし貼り付けてみて1つのセルに固まってしまったら、諦めて「タブ区切りで出力してください。スペースではなく、Tabキーの空白を使ってください」と再度指示を出す。
最後に
以前、大規模なプロジェクトのキックオフ会議の後に、この方法を試したことがある。
当時はまだAIの精度も今ほどではなく、抽出されたタスクの半分が「会議の議題」そのものだった。結局、手直しに30分かかって、「AIを使うくらいなら自分で書いたほうが早い」と投げ出した。
しかし、今のモデルなら、おそらく修正は数分で済む。
まずは、明日予定されている、あの少し面倒な定例会議のメモから試してみてほしい。完璧なリストを期待するのではなく、「Excelに貼り付けるための下書き」を作らせる感覚で。
さて、私の手元には、まだ整理できていない先月の経費精算の突合作業が残っている。次は、Excelの関数とAIを組み合わせた「VLOOKUPの自動生成」あたりを試してみるつもりだ。