面倒な事務作業をAIに渡す実務メモ(Excel・会議・社内情報の整理が中心)コラム
「あー、これ、まとめ直すの面倒だな……」
金曜日の午後4時。デスクに散らばったメモ、チャットツールに流れてきた後輩の田島からの雑な指示、そして会議中に自分が殴り書きした、もはや自分でも読みづらい議事録の断片。これらを一つにまとめて、経理の小林さんが納得するような「正確な進捗管理表」に作り替えなければならない。
部長からは「いい感じに整理しといて」とだけ言われている。この「いい感じ」が一番厄介だ。バラバラな情報を整理して、Excelの表に落とし込む作業。一見すると単純だが、一つひとつの項目を読み解き、表記を整え、漏れがないか確認する……。この「読み解きながら、整える」というプロセスが、脳のエネルギーをじわじわと削ってくる。
もしここで、安易にChatGPTなどのAIに「これをまとめて」と放り込んでしまうと、たいていの場合、「きれいな要約文」が出来上がるだけで終わる。私たちが欲しいのは、美しい文章ではなく、明日からの作業に使える「構造化されたデータ」なのだ。
この記事では、バラバラのテキスト情報を、そのままExcelへ貼り付けられる「構造化リスト」へ変換する具体的な手順を整理しておく。
「要約」を頼むと失敗する
以前、私も同じ罠にハマった。会議のメモをAIに渡し、「内容を分かりやすくまとめて」と指示を出したのだ。返ってきたのは、非常に読みやすい、見事なまでの「議事録(文章)」だった。
しかし、その後に待っていたのは、その文章を読み解きながら、改めてExcelの「タスク名」「担当者」「期限」「ステータス」の列に情報を手入力していくという、二度手間な作業だった。AIに要約させたことで、逆に「情報の抽出」という一番面倒な工程が手元に残ってしまったのだ。
AIに事務作業を任せるコツは、「文章を作らせる」のではなく、「データを選別・配置させる」という意識を持つことにある。
事前準備:情報の「伏せ方」と「規程」の確認
作業に入る前に、絶対に避けて通れないのが情報の取り扱いだ。
まず、会社のルールで「外部AIへのデータ入力」がどこまで許されているか、必ず確認してほしい。情シスの及川さんに聞くのが一番早いが、もし個人の判断で行うなら、最低限の「情報の置き換え」は必須だ。
ここで大事なのは、単に名前を消すだけではない。情報の「構造」を壊さないように伏せることだ。例えば、具体的な顧客名や金額をそのまま消してしまうと、AIがその情報の重要度を判断できなくなる。
- 固有名詞(人名・社名): 「株式会社〇〇」「田中さん」→「クライアントA」「担当者X」
- 金額: 「1,245,000円」→「[金額]」または「[100万円台]」
- 具体的なプロジェクト名: 「次世代型エンジン開発プロジェクト」→「プロジェクトAlpha」
このように、情報の「種類」がわかるように置き換えておく。こうすることで、AIは「これは金額の情報だな」「これは組織の名前だな」と理解でき、構造を保ったまま整理してくれる。
実践:テキストを「TSV形式」で出力させる
バラバラの情報を整理する際、私がたどり着いた結論は「Markdownの表ではなく、TSV(タブ区切り)で出力させる」ことだ。
AIが作る「表(Markdown形式)」は、チャット画面上では見栄えが良いが、そのままExcelにコピー&ペーストすると、セルが崩れたり、余計な記号が入ったりして、結局修正作業が発生しやすい。
一方でTSV(Tab Separated Values)は、各項目が「タブ(空白)」で区切られただけのシンプルなテキストだ。これをコピーしてExcelに貼り付けるだけで、各項目が正確にセルに割り振られる。
具体的な手順は以下の通りだ。
- 素材の整理: メモ、チャット、メールなどを一つのテキストにまとめる(この時、上記の伏せ字処理を行う)。
- プロンプトの入力: 後述する「構造化用プロンプト」を使い、項目を指定して指示を出す。
- コピー&ペースト: AIが出力したテキストをコピーし、Excelの左上のセルを選択して貼り付ける。
構造化用プロンプト例
以下の指示文をコピーして、[ ] の部分を書き換えて使ってみてほしい。
# 依頼
以下の「バラバラな情報」を解析し、指定の「出力形式」に従って整理してください。
# 出力形式
TSV形式(タブ区切り)で出力してください。
Markdownの表形式(| や - を使う形式)は使用しないでください。
列名は以下の通りとします。
[列名1] [列名2] [列名3] [列名4]
# ルール
- 情報が不足している項目は、空欄にせず「不明」と記入してください。
- 表記揺れ(例:「未着手」と「やっていない」)は、[指定の表記] に統一してください。
- 1つの行に、1つのタスク(または1つの決定事項)を割り当ててください。
# バラバラな情報
[ここにメモやチャットの内容を貼り付ける]
うまくいかない時のチェックリスト
この方法を試しても、思うような結果が得られないことがある。その時は、以下のパターンに陥っていないか確認してほしい。
- 指示が抽象的すぎる: 「いい感じに表にして」は、AIにとって最も難解な指示だ。「列名は『日付』『内容』『担当』の3つにして」と、機械的に指定する必要がある。
- 一度に渡す情報が多すぎる: 会議のメモが数ページに及ぶような場合は、一度に渡すとAIが情報の取捨選択を誤ることがある。章ごとに分けるか、重要な箇所に絞って渡すのが現実的だ。
- 「不明」の扱いが曖昧: AIは「答えを出さなければならない」という強迫観念があるため、元のテキストに書いていないことまで勝手に推測して書くことがある。プロンプトに「不明な場合は『不明』と書け」と念押ししておくことが、後の手直しを減らすコツだ。
迷ったときの判断基準:Markdownか、TSVか
もし、AIの回答を「そのまま会議の資料として画面で見せたい」のであれば、Markdown形式の表が適している。見た目が整っているからだ。
しかし、今回のように「Excelで管理したい」「後で並べ替えたり集計したりしたい」のであれば、迷わずTSVを選んでほしい。この「出力形式の指定」ひとつで、その後の自分の作業時間が変わる。
さて、整理のやり方は見えてきた。
明日、田島からまた「これ、ちょっとまとめておいて」と雑なチャットが来るかもしれない。その時は、焦ってキーボードを叩き始める前に、まずは情報を「伏せ字」にして、TSV形式で書き出す準備をしてみるつもりだ。
私も、まだ「部長の『いい感じに』」を完璧に解釈するプロンプトには辿り着けていない。それについては、また別の機会にメモしておこう。